こんにちは。公認会計士・税理士の永井です。
今回の『条文から読み解くシリーズ』は、免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間(以下、経過措置期間)中にインボイス発行事業者の登録を受ける場合における、いわゆる2年縛りと3年縛りの取扱いについて取り上げたいと思います。
※『条文から読み解くシリーズ』は、税務トピックを根拠となる条文まで深堀りしながら、一般の方々にとっても分かりやすく解説する記事を目指すコラムシリーズです。
免税事業者のインボイス発行事業者の登録に係る経過措置
免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受けるためには、原則として、消費税課税事業者選択届出書(以下、課税選択届出書)を提出し、課税事業者となる必要がありますが、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中において、令和5年10月1日後に登録を受ける場合には、インボイス発行事業者の登録申請書に登録希望日(提出日から 15 日以降の登録を受ける日として事業者が希望する日)を記載することで、その登録希望日から課税事業者となる経過措置が設けられました(所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則第44条第4項、消費税法施行令等の一部を改正する政令(平成30年政令第135号)附則第15条第2項、消費税法基本通達21-1-1)。
したがって、この経過措置の適用を受けることとなる場合は、登録希望日から課税事業者となり、登録を受けるに当たり、課税選択届出書を提出する必要はありません。
経過措置の適用を受ける場合の2年縛りの取扱い
インボイス制度導入前からの取扱いとして、課税選択届出書を提出した事業者は、課税選択届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該提出をした日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間等である場合には、当該課税期間)の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、消費税課税事業者選択不適用届出書(以下、課税選択不適用届出書)を提出することができない、すなわち、課税事業者となった課税期間の初日から原則として2年間は免税事業者となることができないこととされています(消費税法第9条第4項~第6項)。これがいわゆる2年縛りです。
消費税法
引用元:消費税法 | e-Gov法令検索
(小規模事業者に係る納税義務の免除)
第九条
4 第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなる事業者が、その基準期間における課税売上高・・・が千万円以下である課税期間につき、第一項本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書(筆者注:課税選択届出書)をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合には、当該提出をした事業者が当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間(当該提出をした日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が千万円を超える課税期間を除く。)中に国内において行う課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、同項本文の規定は、適用しない。
5 前項の規定による届出書を提出した事業者は、同項の規定の適用を受けることをやめようとするとき、又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書(筆者注:課税選択不適用届出書)をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。
6 前項の場合において、第四項の規定による届出書(筆者注:課税選択届出書)を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、同項に規定する翌課税期間の初日から二年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、同項の規定の適用を受けることをやめようとする旨を記載した届出書(筆者注:課税選択不適用届出書)を提出することができない。
ここで、インボイス発行事業者の登録に係る経過措置の適用を受ける場合、課税選択届出書を提出する必要がないこととされているため、「課税選択届出書を提出した」ことが前提となっている消費税法第9条第6項の適用はありません。ところが、所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則第44条第5項において、次のとおり規定されています。
附 則 (平成二八年三月三一日法律第一五号) 抄
引用元:消費税法 | e-Gov法令検索
(適格請求書発行事業者の登録等に関する経過措置)
第四十四条
5 前項の規定(筆者注:インボイス発行事業者の登録に係る経過措置)の適用を受ける事業者の登録開始日の属する課税期間の翌課税期間から登録開始日以後二年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間・・・における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、同法第九条第一項本文の規定は、適用しない。ただし、登録開始日の属する課税期間が五年施行日(筆者注:令和5年10月1日)を含む課税期間である場合は、この限りでない。
つまり、インボイス発行事業者の登録に係る経過措置の適用を受ける事業者についても、課税選択届出書を提出した場合と同様に2年縛りの対象になることとされています。ただし、例外として、登録開始日の属する課税期間が令和5年10月1日を含む課税期間である場合は、2年縛りの対象にならないこととされています。そのため、登録開始日の属する課税期間が令和5年10月1日を含む課税期間である場合には、その課税期間の翌課税期間から免税事業者になることも可能です。
経過措置の適用を受ける場合の3年縛りの取扱い
課税選択届出書を提出した事業者が、課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中に調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合、調整対象固定資産の仕入れ等を行った課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については免税事業者となることができないこととされています(消費税法第9条第7項)。これがいわゆる3年縛りです。
消費税法
引用元:消費税法 | e-Gov法令検索
(小規模事業者に係る納税義務の免除)
第九条
7 第五項の場合(筆者注:課税選択不適用届出書を提出する場合)において、第四項の規定による届出書(筆者注:課税選択届出書)を提出した事業者は、同項に規定する翌課税期間の初日から同日以後二年を経過する日までの間に開始した各課税期間・・・中に国内における・・・調整対象固定資産の仕入れ等・・・を行つた場合・・・には、前項の規定にかかわらず、事業を廃止した場合を除き、当該調整対象固定資産の仕入れ等の日・・・の属する課税期間の初日から三年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、第四項の規定の適用を受けることをやめようとする旨を記載した届出書(筆者注:課税選択不適用届出書)を提出することができない。(以下省略)
なお、調整対象固定資産とは、一の取引単位につき、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)が100万円以上の建物及びその附属設備、構築物、機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権等の資産で棚卸資産以外のものをいいます(消費税法第2条第16号、消費税法施行令第5条)。
ここで、インボイス発行事業者の登録に係る経過措置の適用を受ける場合、課税選択届出書を提出する必要がないこととされているため、「課税選択届出書を提出した」ことが前提となっている消費税法第9条第7項の適用はありません。さらに、先ほどのインボイス発行事業者の登録に係る経過措置の適用を受ける事業者に適用される2年縛りのような規定は、3年縛りについては特段設けられていません。
したがって、インボイス発行事業者の登録に係る経過措置の適用を受ける事業者については、3年縛りの対象にはなりません。
2年縛りと3年縛りの取扱いのまとめ
免税事業者のインボイス発行事業者の登録に係る経過措置期間における2年縛りと3年縛りの取扱いをまとめると下表のとおりです。
令和5年10月1日の属する課税期間 | 令和5年10月1日から 令和11年9月30日まで の日の属する課税期間 (左記を除く) | |
2年縛り | 対象外 | 対象 |
3年縛り | 対象外 | 対象外 |
<例1>
3月決算の会社がインボイス発行事業者の登録申請書を提出して令和6年3月期にインボイス発行事業者の登録を受けた場合、令和6年3月期は令和5年10月1日の属する課税期間に該当するため、上表のとおり2年縛りと3年縛りのいずれの対象にもなりません。
この場合、調整対象固定資産の取得の有無にかかわらず、インボイス発行事業者の登録取消届出書を提出することにより、令和7年3月期以降において免税事業者となることができます(ただし、他の免税事業者となることができないこととされる規定の適用がある場合を除きます)。
<例2>
3月決算の会社がインボイス発行事業者の登録申請書を提出して令和7年3月期にインボイス発行事業者の登録を受けた場合、令和7年3月期は令和5年10月1日の属する課税期間に該当しないため、上表のとおり2年縛りの対象となり、一方で3年縛りの対象にはなりません。
この場合、2年縛りの対象となることにより令和8年3月期及び令和9年3月期は免税事業者となることができませんが、3年縛りの対象ではないため、調整対象固定資産の取得の有無にかかわらず、インボイス発行事業者の登録取消届出書を提出することにより、令和10年3月期以降において免税事業者となることができます(ただし、他の免税事業者となることができないこととされる規定の適用がある場合を除きます)。
なお、経過措置期間中にあえて課税選択届出書を提出するケースは多くないと考えられますが、仮に経過措置の適用を受けずに課税選択届出書を提出した場合には、3年縛りの対象になるため、令和11年3月期以降でないと免税事業者となることができません。
結び
消費税の納税義務等の取扱いはインボイス制度導入によりますます複雑になっており、今回解説したとおり免税事業者のインボイス発行事業者の登録に係る経過措置期間における2年縛りと3年縛りの取扱いが異なるなど、思わぬ落とし穴もあります。消費税については届出書の提出失念や選択誤り等により消費税額の過大納付・還付不能が生じることがあります。本来不要な税負担が発生することのないよう、税制を正確に理解する必要があるのはもちろんのこと、将来計画等も踏まえて総合的に検討した上で適切な手続・選択を行うことが求められます。
※本コラムの内容は執筆日現在の法令等に基づいております。執筆日以降の法令等の変更が反映されていない可能性がある点につきご留意ください。
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