永井公認会計士・税理士事務所

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内定者と採用面接者に支給する交通費はインボイスの取扱いが違う?


こんにちは、公認会計士・税理士の永井です。
今回の『条文から読み解くシリーズ』は、国税庁が公表しているインボイス制度の「多く寄せられる質問」の中から取り上げたいと思います。

※『条文から読み解くシリーズ』は、税務上の取扱いを根拠となる条文まで深堀りしながら、一般の方々にとっても分かりやすい内容の解説記事を目指すコラムシリーズです。

内定者か採用面接者かによってインボイスの取扱いが異なる

国税庁のホームページではインボイス制度の「多く寄せられる質問」が公表されており、定期的に追加公表・改訂が行われています。今回取り上げるのは、令和6年2月19日に改訂された問15「派遣社員等や内定者等へ支払った出張旅費等の仕入税額控除」です。

改訂により新たに示されたのが、内定者や採用面接者に対して内定者説明会会場や面接会場までの交通費等を支給する場合の取扱いです。 注目すべきポイントは、内定者と採用面接者で取扱いが異なる点です。

 内定者のうち、企業との間で労働契約が成立していると認められる者に対して支給する交通費等については、通常必要であると認められる部分の金額について出張旅費等特例の対象として差し支えありません。

※ 労働契約が成立していると認められるか否かは、例えば、企業から採用内定通知を受け、入社誓約書等を提出している等の状況を踏まえて判断されることとなります。

  一方、採用面接者は通常、従業員等に該当しませんので、支給する交通費等について、出張旅費等特例の対象にはなりません。

引用元:多く寄せられるご質問|国税庁

上記の内容を要約すると、交通費等を支給したのが内定者の場合は出張旅費等特例の対象になるが、採用面接者の場合は出張旅費等特例の対象にならない、言い換えれば、交通費等を支給したのが内定者の場合はインボイスの保存が不要だが、採用面接者の場合はインボイスの保存が必要、ということです。

そもそも出張旅費等特例とは何か、なぜ内定者か採用面接者かでインボイスを保存する必要があるか否かが変わるのか、条文を読み解きながら見ていきましょう。

出張旅費等特例とはインボイスの保存が不要となる特例

従業員に支給する出張旅費、宿泊費、日当等(以下、出張旅費等)のうち、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額については、課税仕入れに該当し、仕入税額控除を行うことができます。
また、出張旅費等は「請求書等の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れ」として、帳簿のみの保存で(請求書等を保存することなく)仕入税額控除が認められることとされています。 この取扱いを「出張旅費等特例」といいます。

根拠となる条文は、消費税法第30条第7項、消費税法施行令第49条第1項第2号、消費税法施行規則第15の4条第2号です。政令(施行令)や省令(施行規則)まで確認しなければならず少し大変ですが、一つ一つ見ていきましょう。

まずは消費税法第30条第7項です。

(仕入れに係る消費税額の控除)

第三十条 事業者・・・が、国内において行う課税仕入れ・・・については、・・・当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額・・・の合計額を控除する。

(中略)

 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合・・・その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ・・・の税額については、適用しない。

(以下省略)

引用元:消費税法 | e-Gov法令検索

通常は「帳簿及び請求書等」を保存しない場合には仕入税額控除が認められないこととされていますが、ここでのポイントはかっこ書きの部分です。「請求書等の交付を受けることが困難である場合・・・その他の政令で定める場合」においては、「帳簿」を保存しない場合には仕入税額控除が認められないこととされています。
「帳簿及び請求書等」ではなく「帳簿」とされているということは、すなわち帳簿のみ保存しておけば仕入税額控除が認められるということであり、インボイスを含めた請求書等を保存する必要はないとうことです。

続いて、消費税法施行令第49条第1項です。
ここでは先ほどの消費税法第30条第7項のかっこ書きにおける「その他の政令で定める場合」が規定されています。
このうち、出張旅費等は第2号に含まれます。

(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)

第四十九条 法第三十条第七項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。

(中略)

 イからハまでに掲げるもののほか、請求書等(法第三十条第七項に規定する請求書等をいう。)の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れとして財務省令で定めるもの

(以下省略)

引用元:消費税法施行令 | e-Gov法令検索

最後に、消費税法施行規則第15の4条です。
ここでは消費税法施行令第49条第1項第2号における「財務省令で定めるもの」が規定されています。
このうち、やや固い表現で分かりづらいですが、出張旅費等を規定しているのが第2号です。

(請求書等の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れ)

第十五条の四 令第四十九条第一項第一号ニに規定する財務省令で定める課税仕入れは、次に掲げる課税仕入れとする。

(中略)

 法人税法(昭和四十年法律第三十四号)第二条第十五号(定義)に規定する役員又は使用人(以下この号及び次号において「使用人等」という。)が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし・・・た場合に、その旅行に必要な支出に充てるために事業者がその使用人等・・・に対して支給する金品で、その旅行について通常必要であると認められる部分に係る課税仕入れ

(以下省略)

引用元:消費税法施行規則 | e-Gov法令検索

以上の規定を要約すると、使用人等に支給する通常必要であると認められる出張旅費等は、請求書等の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れとして、帳簿のみ保存すれば(インボイスを保存することなく)仕入税額控除が認められる、ということです。

ここまで出張旅費等特例の根拠となる条文を確認しましたので、続いて内定者や採用面接者の場合の取扱いを見ていきましょう。

「使用人等」に内定者や採用面接者は含まれるか

先ほど条文で確認したとおり、インボイスの保存が不要となる出張旅費等特例は「使用人等」(役員又は使用人)が対象です。

それでは、「使用人等」に内定者や採用面接者は含まれるでしょうか?そう聞かれたら、直感的には「No」と答えたくなるのではないでしょうか。内定や採用面接は入社して使用人となる前の段階であり、「使用人等」に内定者や採用面接者は含まれないと考えるのがごく自然であるように思われます。

この点、冒頭に引用したとおりインボイス制度の「多く寄せられる質問」において、国税庁は「内定者のうち、企業との間で労働契約が成立していると認められる者に対して支給する交通費等については、通常必要であると認められる部分の金額について出張旅費等特例の対象として差し支えありません」との見解を示しています。
また、「労働契約が成立していると認められるか否かは、例えば、企業から採用内定通知を受け、入社誓約書等を提出している等の状況を踏まえて判断されることとなります」としています。入社前であっても、ほぼ入社することが確実であると認められる状況であれば使用人と同様に取り扱ってよい、と国税庁は考えているようです。
個人的には、文理解釈の考え方からすると「使用人等」に内定者が含まれるとする解釈はやや無理があるように感じますが、実情を考慮して納税者有利の取扱いを認めようという政治的判断があったのかもしれません。

ところが、国税庁は一方で「採用面接者は通常、従業員等に該当しませんので、支給する交通費等について、出張旅費等特例の対象にはなりません」として、内定者とは異なる取扱いを示しています。
これは、先ほどの「企業との間で労働契約が成立していると認められるか否か」という基準に照らして、さすがに「使用人等」に採用面接者が含まれると解釈するのは無理があるだろうと判断したのでしょう。

内定者が出張旅費等特例の対象となることが公式見解として示されたのは納税者にとって朗報ですが、一方で採用面接者は出張旅費等特例の対象外ということで、どこか中途半端な取扱いになってしまった感は否めません。また、新たに「企業との間で労働契約が成立していると認められるか否か」という、やや不明確な判断基準が設けられたことで、実務上は余計なグレーゾーンが出来てしまったように思います。

結論

内定者(企業との間で労働契約が成立していると認められる者)は「使用人等」に該当し、その内定者に対して支給する交通費等は出張旅費等特例の対象となるため、インボイスの保存が不要となります。
一方、採用面接者は通常「使用人等」に該当せず、その採用面接者に対して支給する交通費等は出張旅費等特例の対象とならないため、インボイス保存が必要となります。

なお、出張旅費等特例の対象とならない場合でも、一定の場合には他のインボイス保存が不要となる特例(公共交通機関特例)の対象となることとされています。ただし、こちらも交通費等を「内定者等を通じて公共交通機関(船舶、バス、鉄道又は軌道)に直接支払っているものと同視し得る場合」といった、具体的にどのような場合が該当するのかやや不明確な条件が設けられているため、個々のケースにおける取扱いは必要に応じて顧問税理士等へ相談の上、慎重に判断する必要があると考えます。

※本コラムの内容は執筆日現在の法令等に基づいております。執筆日以降の法令等の変更が反映されていない可能性がある点につきご留意ください。

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