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税理士が考える正しい「#確定申告ボイコット」の仕方


こんにちは、公認会計士・税理士の永井です。
今まさに令和5年分の所得税の確定申告時期ですね。先日ホームページ開設のお知らせをX(旧Twitter)に投稿しようとしたところ、こんなサジェストが出てきました。

少し前から「#確定申告ボイコット」というハッシュタグを付けた投稿が相次いでいるようで、これは政治家の裏金問題を発端にして起こっている動きのようです。
ハッシュタグを少し追ってみると、かなり怒りのボルテージが高い投稿も散見されますが、中には本当に「#確定申告ボイコット」を実行に移すつもりの方もいらっしゃるのでしょうか。

もし実際に「#確定申告ボイコット」する方がいらっしゃるとしたら、税理士の目線からは非常に危ないと感じます。
所得税を含めた税金については、「租税法律主義」という考え方があります。簡単に言うと、税金を課すなら法律で定めておかないといけない、法律で定めていない税金を勝手に課してはいけない、ということです。
ただし、これは言い換えると、法律で定められた税金は課すことができる、法律で定められた税金は納税する義務がある、ということになります。

具体的に、所得税の納税義務については、所得税法第5条に定められています。

(納税義務者)

第五条 居住者は、この法律により、所得税を納める義務がある。
(以下省略)

引用元:所得税法 | e-Gov法令検索

また、確定申告義務については、所得税法第120条に定められています。

(確定所得申告)

第百二十条 居住者は、その年分の総所得金額・・・が・・・雑損控除その他の控除の額の合計額を超える場合において、当該総所得金額・・・からこれらの控除の額を・・・控除した後の金額をそれぞれ課税総所得金額・・・とみなして・・・計算した場合の所得税の額の合計額が配当控除の額を超えるとき・・・は、・・・第三期(その年の翌年二月十六日から三月十五日までの期間をいう。以下この節において同じ。)において、税務署長に対し、次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。

(以下省略)

引用元:所得税法 | e-Gov法令検索

我々は、所得税法という法律で定められているが故に、所得税の納税義務も確定申告義務もあるのです。そして、政治家が所得税の納税義務や確定申告義務を負わないといった法律の例外規定はないため、政治家も一般の方々と同じ所得税の納税義務、確定申告義務があるというのが大前提となります。

ここで、法律からは離れますが、たとえば横領等の不法行為により得た所得が課税の対象になるかについて、「所得発生の有無は、その原因となる行為の適否に関係なく、横領された財物であっても、それが現実に横領した者の支配管理にはいった以上、・・・収入金額に含まれるものと解するのが相当」(東京地裁昭和59年7月17日判決)と判示した裁判例があります。
横領により得た所得でさえ課税の対象になるとされているのだから、件の“裏金”も政治家の支配管理下に入っているのであれば、“裏金”は政治家の所得であり、その所得に対する所得税の納税義務、確定申告義務があると考えるのが自然であるように思われます。

以上が政治家側の話ですが、それはそれとして、一般の方々が実際に「#確定申告ボイコット」をすることには以下のようなリスクがあります。

確定申告すべき方が期限内に確定申告をしない場合は「無申告」として取り扱われます。
期限後に思い直して申告したり、税務当局から無申告を指摘されたりすると、本来の納税額に加えてペナルティ(無申告加算税・延滞税)が課されます。
無申告加算税は本来の納税額に対して15〜30%(正確には50万円までの部分は15%、50万円を超え300万円までの部分は20%、300万円を超える部分は30%)の割合を乗じて計算した金額が課されます。たとえば、本来の納税額が100万円の場合、50万円×15%+(100万円−50万円)×20%=17万5千円が無申告加算税として課されます。
延滞税は利息のように納税が遅れた分(法定納期限の翌日から完納する日までの日数)だけ課されます。国税庁のホームページに延滞税の計算ページがあり、自分でも延滞税を計算することができます。
延滞税の計算方法|国税庁

もし「赤信号みんなで渡れば怖くない」というノリで、本当に「#確定申告ボイコット」する方がいらっしゃるとしたら、後で税務調査が入ったとしても「政治家を税務調査するのが先だろう」「政治家が税金を払っていないのだから自分も払うつもりはない」などと言って突っぱねれば逃げられるだろうと高を括っているのかもしれません。

ただし、私がこれまで税務調査に立ち会ってきた経験からすると、それで税務当局が無申告を見逃してくれる可能性はゼロであると言い切ってよいと思います。政治家の裏金問題が一般の方々の無申告を肯定する理由として認められることはなく、その時は同志であるかのように「#確定申告ボイコット」のハッシュタグを付けて投稿していた他の方々が擁護してくれることもないでしょう。あくまで相手は法律であり、仮に国税不服審判所や裁判所で争ったとしても勝ち目はありません。政治家に対する怒りをぶつける相手を間違えないようにしましょう。

従って、実際に「#確定申告ボイコット」をすることは非常にリスクが高いといえますが、怒りの声を挙げること自体には意味があると思います。ここ最近では2023年10月からのインボイス制度導入に際して、小規模事業者等による反対運動が盛んに行われたことは記憶に新しいですが、それが様々な負担軽減のための経過措置・特例(少額特例、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置、2割特例など)の創設に影響を与えたことは間違いないでしょう。

以上より、きちんとご自身の所得税の納税義務・確定申告義務は果たしていただきつつ、「我々は確定申告をボイコットしたくなるくらい政治家に対して怒っているぞ!」と意思表示をしていただくのが、税理士から見た正しい「#確定申告ボイコット」の仕方であると考えます。

※本コラムの内容は執筆日現在の法令等に基づいております。執筆日以降の法令等の変更が反映されていない可能性がある点につきご留意ください。

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